契約書レビューを効率化する生成AI活用術|ChatGPT・Geminiで法務業務を支援


ChatGPT や Gemini などの生成AIチャットボットを用いて、現在は様々な業務効率化が実施されています。
この記事では契約書のレビュー業務を効率化するための方法を、具体的なプロンプトの例と契約書文面を用いてご紹介します。
契約書のレビューは専門性が高く、時間もコストもかかる業務です。弁護士に依頼するのが最も確実ですが、初期段階での確認や大量の契約書を短時間でチェックする場合、AIを活用することで効率を大幅に改善できます。
契約書のチェック業務を効率化する方法について詳しく学びたい方はぜひご覧ください。
株式会社Digeon は契約書レビュー業務などを効率化できる生成AIである「ENSOUチャットボット」を提供しています。
ChatGPT や Gemini で契約書をレビューさせる際の注意点
契約書のレビューを生成AIに任せるときの注意点は、あくまで人間のチェック漏れを防ぐこと、もしくは一次レビューに用いるものであるという認識を持つことです。
生成AIには ハルシネーション(hallucination) と呼ばれる、誤った回答を生成してしまう問題があります。
先日 OpenAI 社の GPT-5 のリリース によって、ハルシネーションが発生するリスクを大きく低減できたという発表がありましたが、依然としてこの問題は可能性を考慮しなければならない問題になっています。
GPT-5 のリリースと性能に関する記事は、以下の記事をご覧ください。
特に契約書のレビューに不備がある場合は、企業の運営上、非常に大きなトラブルにつながる可能性があります。
従って、あくまで生成AIによる一次レビューであるという認識を持ち、その結果をしっかりと人間が責任を持って確認をする必要があります。
ChatGPT で契約書の一次レビューを効率化する方法
ChatGPT で契約書をレビューするプロンプト例
今回はシステム開発会社が顧客と結ぶ「業務委託契約書」を、システム開発会社側の目線でレビューするというケースを想定します。
この契約書レビュー業務において利用する具体的なプロンプトは以下の通りです。
契約書の全文または該当箇所から、チェック項目をレビューし、想定されるリスクを列挙してください。
## 前提
* 弊社は委託先企業である
* 委託先にとってのリスクを評価すること
* リスクの高・中・低を評価すること
* リスクを説明する際に、参考にした契約書の原文を明示すること
## 損害賠償責任
* 損害賠償の上限が、委託金額と同額である
* 間接損害への責任が除外されている
* 重過失以外の過失に関する責任が限定されている
## 知的財産権
* 請負契約の場合、著作権が当社に帰属している
* 汎用的なプログラムについて、再利用が可能であることが明記されている
## 検収・納品
* 納品物が明示されている
* 検収期間が明示されている
* 検収基準が当社に不利でない
## 契約解除
* 一方的に当社に不利な解除条件がない
* 契約解除に事前通知期間が30日前など、設けられている
* 中途解約時の清算ルールが明記されている
## 瑕疵担保・契約不適合
* 瑕疵担保期間が3ヶ月以内である
* 無償修正の範囲が限定されている
## 再委託
* 再委託が可能であるか
## 支払条件
* 支払期限が請求の翌月末になっているか
このプロンプトを元にして、自社の契約書レビュー時におけるチェック項目などをさんこうにかすたまいすれば、貴社での契約書レビューの一次対応をすぐに生成AIに任せることができます。
ChatGPT GPTs で契約書のレビューアシスタントを作る
ChatGPT の場合は、 GPTs の機能を用いて、このプロンプトを登録していきます。
ChatGPT のトップ画面から、「GPTs → +作成する」を押下し、GPTsの作成画面を開きます。

先ほどのプロンプトを「指示」欄に入力し、その他の必要な情報を登録します。

作成が完了すると以下の画面が表示され、先ほど作成した GPTs のアシスタントへ、ここから契約書のレビューを依頼できます。

レビューを依頼するときは、契約書のファイルをアップロードし、レビューを依頼する旨のメッセージを送信します。

そうすると今回は以下のような結果を受け取れました。

レビューの全文は以下の通りです。契約書の確認するべき観点について、それぞれ具体的なリスク度合いと、その理由について解説してくれています。
以下、契約書を委託先(御社)の立場でレビューしました。契約条文を引用しつつ、想定されるリスクとその評価をまとめます。
---
## 1. 損害賠償責任
契約書記載
「8. 損害賠償限度額 本件受託金額を上限とする。」
評価
- 損害賠償額の上限が「受託金額(10,000,000円)」に限定されている → リスク低(過大な賠償責任を負うリスクは限定されている)
- 間接損害の除外条項が見当たらない → リスク中(逸失利益等を請求されるリスクが残る可能性)
- 「重過失以外の過失制限」の記載なし → リスク中(軽過失でも賠償責任を負う可能性あり)
---
## 2. 知的財産権
契約書には知的財産権の帰属に関する明記が確認できませんでした。
評価
- 著作権の帰属が規定されていない → リスク高(納品後にユーザ側に権利帰属すると解釈される恐れ)
- 汎用的プログラムの再利用可否も未規定 → リスク高(二次利用に制約が生じる可能性)
---
## 3. 検収・納品
契約書記載
- 成果物一覧(要件定義書、外部設計書、開発プログラム一式等)
- 納期:2025年9月30日
- 検査期間:納期後30日間
- 検査に合格しない場合、修正して再検査。異議なければ合格とみなす
評価
- 納品物・検収期間は明示されている → リスク低
- 検収基準は合理的(不合格理由明示義務あり) → リスク低
---
## 4. 契約解除
契約解除に関する条項は本個別契約内で確認できませんでした。
評価
- 一方的な解除条項や事前通知義務が不明 → リスク中(基本契約に依存している可能性)
- 中途解約時の清算ルール未記載 → リスク高
---
## 5. 瑕疵担保・契約不適合
契約書記載
- 「瑕疵担保期間:各成果物の検収完了日から起算して1年間」
- 軽微な瑕疵で過大な費用がかかる場合は修正義務を負わない
評価
- 1年間と比較的長い瑕疵担保期間 → リスク中〜高(修正対応負担が長期化)
- 「軽微な瑕疵」の修正免除あり → リスク低(過大負担を避けられる)
---
## 6. 再委託
再委託に関する条項が確認できませんでした。
評価
- 再委託の可否不明 → リスク中(再委託が禁止される可能性)
---
## 7. 支払条件
契約書記載
「支払期限:成果物納品及び検収完了後、月末締め翌月末日支払い」
評価
- 請求翌月末払いで明示されている → リスク低
---
✅ 総合評価(委託先にとってのリスク)
- 低リスク領域:損害賠償上限、検収・納品、支払条件
- 中リスク領域:瑕疵担保期間の長さ、解除条件の不明確さ、再委託の可否
- 高リスク領域:知的財産権の帰属不明確、汎用資産の再利用可否未定義
---
こちらを踏まえ、特に 知的財産権の帰属 と 契約解除条項の明確化 を交渉ポイントとして提案します。
---
ご希望があれば、この内容を 交渉用チェックリスト に整理し直しましょうか?
Gemini で契約書の一次レビューを効率化する方法
今度は Gemini の Gems の機能を用いてレビューを効率化する方法を記載します。
Gemini Gems で契約書のレビューアシスタントを作る
「Gemを表示」 → 「Gem を作成」から、以下の画面を開きます。

「カスタム指示」欄に先ほどの ChatGPT GPTs の例と同様に、レビュー用のプロンプトを入力します。そして右上の保存ボタンを押下し、 Gem を保存します。

そして契約書のファイルをアップロードし、レビューを依頼します。

以下のようにレビューが実施されました。

レビューの全文は以下の通りです。GPT-5と比較すると Gemini 2.5 Pro はかなり詳細にレビューをしてくれていることが分かります。
契約書のレビュー依頼ありがとうございます。
ご依頼いただいた「ソフトウェア開発業務委託 個別契約書」について、弊社の立場(委託先:ベンダー)から想定されるリスクを分析いたしました。
### レビュー結果サマリー
本契約書には、損害賠償の上限設定や明確な検収プロセスなど、ベンダーにとって有利な点も見られますが、一方で**知的財産権の帰属**や**契約解除**に関する条項が欠落しており、また**瑕疵担保期間**が長期に設定されているなど、看過できないリスクが存在します。
- リスク【高】: 契約修正の交渉を強く推奨する項目
- 瑕疵担保・契約不適合: 瑕疵担保期間が1年と長期に設定されている。
- 知的財産権: 成果物の著作権の帰属が定められていない。
- 契約解除: 契約解除に関する規定が一切存在しない。
- リスク【中】: 契約修正の交渉を検討すべき項目
- 損害賠償責任: 間接損害や重過失に関する規定が欠落している。
- 再委託: 再委託の可否が不明確である。
- リスク【低】: 許容可能と判断される項目
- 損害賠償責任: 賠償額の上限が設定されている。
- 検収・納品: 納品物、検収期間、検収基準が明確で、不利な内容ではない。
- 支払条件: 支払条件が明確かつ一般的である。
---
### チェック項目毎の詳細レビュー
以下に、各チェック項目に沿ったレビュー結果と具体的なリスクを記載します。
#### 1. 損害賠償責任
- リスク評価: 低 / 中
|評価|内容|該当箇所(原文)|
|---|---|---|
|**低**|**損害賠償の上限額**:委託金額が上限として明確に設定されており、無限責任を負うリスクは回避されています。|`8. 損害賠償限度額 本件受託金額を上限とする。` 1|
|**中**|**間接損害・重過失への言及なし**: 損害賠償の範囲に、逸失利益などの間接損害が含まれるかどうかが不明確です。また、当方に重過失があった場合に、賠償額の上限が適用されるかどうかも規定されていません。これらの点が争点となるリスクがあります。|該当箇所なし|
#### 2. 知的財産権
- リスク評価: 高
|評価|内容|該当箇所(原文)|
|---|---|---|
|**高**|**著作権の帰属が不明**: 納品する成果物(プログラム等)の著作権がどちらに帰属するのか、一切定められていません。これにより、納品後に弊社が開発したプログラムの再利用(他案件への流用など)が制限されたり、著作権の帰属を巡ってユーザと紛争になったりする重大なリスクがあります。|該当箇所なし|
#### 3. 検収・納品
- リスク評価: 低
|評価|内容|該当箇所(原文)|
|---|---|---|
|**低**||**納品物・検収期間が明確**: 納品すべき成果物と、検収期間(30日間)が明確に定められています。 22222||`成果物: 要件定義書 外部設計書 開発プログラム一式 テストプログラム一式 運用環境一式` 3333|`検査期間:上記納期後30日間` 4|
|**低**||**検収基準が不利でない**: ユーザが検収で不合格とする際には具体的な理由を明記した書面の交付が必要であり 5、また、期間内にユーザからの異議申し立てがなければ検査に合格したものとみなされる「みなし検収」の規定があるため 6、一方的に不利な状況にはなりにくいと考えられます。||`4) ユーザが検収書を交付しない場合であっても、検査期間内にユーザが書面で具体的な理由を明示して異議を述べない場合は、成果物は、検査期間満了日に検査に合格したものとみなす。` 7|
#### 4. 契約解除
- リスク評価: 高
|評価|内容|該当箇所(原文)|
|---|---|---|
|**高**|**契約解除条項の不存在**: 契約解除に関する規定が一切ありません。これにより、ユーザから一方的に契約を解除された場合の扱いや、プロジェクトが中止になった際の中途解約時の清算ルール(それまでに発生した費用の支払いなど)が不明確であり、弊社が大きな損害を被るリスクがあります。|該当箇所なし|
#### 5. 瑕疵担保・契約不適合
- リスク評価: 高
|評価|内容|該当箇所(原文)|
|---|---|---|
|**高**||**瑕疵担保期間が長い**: 瑕疵担保期間が「検収完了日から起算して1年間」と設定されています。 8 システム開発における一般的な瑕疵担保期間(3ヶ月〜6ヶ月程度)と比較して長期間であり、その分、無償での修正対応を求められるリスクが高まります。|`6. 瑕疵担保期間 各成果物の検収完了日から起算して1年間` 9|
|**低**||**無償修正の範囲が限定的**: 瑕疵が軽微で修正に過大な費用を要する場合や 10、ユーザから提供された資料・指示に起因する瑕疵については責任を負わないと定められており 11、無償対応の範囲が一定限定されている点は評価できます。||`2) 前項にかかわらず、瑕疵が軽微であって、成果物の修正に過分の費用を要する場合、ベンダは前項所定の修正責任を負わない。` 12|
#### 6. 再委託
- リスク評価: 中
|評価|内容|該当箇所(原文)|
|---|---|---|
|**中**|**再委託に関する規定がない**: 弊社から第三者への業務の再委託が可能かどうかが定められていません。これにより、開発リソースの柔軟な確保が難しくなる可能性があります。|該当箇所なし|
#### 7. 支払条件
- リスク評価: 低
|評価|内容|該当箇所(原文)|
|---|---|---|
|**低**||**支払期限が明確**: 「検収完了後、月末締め翌月末日支払い」と定められており、一般的で明確な支払条件です。 13||`支払期限:成果物納品及び検収完了後、月末締め翌月末日支払い` 14|
---
以上が本契約書のレビュー結果となります。
特にリスクが【高】と評価された項目については、契約締結前にユーザ側と協議し、条文の修正・追加を検討されることを強く推奨いたします。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお申し付けください。
まとめ
本記事では、ChatGPT や Gemini などの生成AIを用いて契約書レビューを効率化する方法を紹介しました。
これにより、見落としやすいリスクを早期に可視化し、交渉すべきポイントを抽出することが可能になります。
一方で、生成AIには依然として「ハルシネーション」と呼ばれる誤回答のリスクが存在します。
そのため、AIのレビュー結果を鵜呑みにせず、あくまで人間による最終確認を前提とした補助ツールとして利用する姿勢が不可欠です。
一方で今回のケースのように契約書のような機密性の高い情報を ChatGPT や Gemini に入力すると、契約プランや設定によってはこの情報をAIに学習されてしまうリスクがあります。
株式会社Digeonが提供する法人向け生成AIの「ENSOUチャットボット」は、機密情報であるデータがAIに学習されるリスクなく利用できるサービスです。
サービス紹介資料をこちらからダウンロードいただけます👇
ご相談、無料トライアルは、以下からお問い合わせください👇
また、ローカルLLMを自社のクラウドやオンプレミス環境に構築する「ローカルLLM構築サービス」を提供しています。詳しくは以下のサービスサイトをご覧ください。